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神戸地方裁判所 昭和31年(モ)1063号 決定

申立人 秋相春 外一名

相手方 蔡丁竜

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人等の負担とする。

理由

申立代理人は「債権者蔡丁竜債務者秋相春同文開文間の当庁昭和三一年(ヨ)第三五四号仮処分申請事件について同三一年九月一二日なされた仮処分決定を取消す。債権者の仮処分申請を却下する。申請費用は債権者の負担とする。」との決定を求め、その理由とするところは次のとおりである。

「債権者蔡丁竜、債務者秋相春、同文開文間の当庁昭和三一年(ヨ)第三五四号仮処分申請事件について同三一年九月一二日債務者秋相春の太平信用組合の理事兼代表理事の職務並びに同文開文の理事の職務の各執行停止と代行者選任の仮処分決定がなされた。しかしながら、右債権者蔡丁竜は太平信用組合の組合員として右仮処分の申請をしたものであるところ、同債権者は、真実は同組合の組合員ではなく、従つて当事者適格を有しないから、右仮処分申請は不適法である。そこで商法第二七〇条第二項を準用し、判決ではなく決定をもつて、右仮処分決定の取消とその申請の却下を求める。」

昭和三一年九月一二日当庁昭和三一年(ヨ)第三五四号仮処分申請事件について中小企業等協同組合法に基く信用協同組合である太平信用組合の役員たる申立人等に対しその主張のような仮処分決定がなされたことは当裁判所に顕著である。

そして申立人等の本件申立の趣旨とするところは、商法第二七〇条の取締役の職務執行停止並びに代行者選任の仮処分に関する規定は特殊の仮処分手続を定めたもので、同条第二項はその仮処分命令に対する独立の取消変更手続を規定したものと解釈し、本件中小企業等協同組合法に基く組合の理事の職務執行停止並びに代行者選任の仮処分についても同条項が準用されるものとして、決定をもつてさきの仮処分命令の取消を求めるものと認められる。

しかし商法第二七〇条の規定は、従前から民事訴訟法第七六〇条により仮の地位を定める仮処分として認められて来たものを明文化したもので、民事訴訟法の仮処分以外に特別な処分を認めたものでなく、右仮処分命令の取消変更に関する商法第二七〇条第二項もその要件手続などについて何等の定めもないのであつて、特別の取消変更手続を規定したものとみられず、ただ単に民事訴訟法の定める仮処分の取消変更手続、すなわち上訴或は異議、事情変更、特別事情又は起訴命令の期間徒過等を原因として取消変更を求めうる旨を注意的に規定したにとどまるものとみられる。そうであるから申立人等が前記のようにさきの仮処分決定について当事者適格を欠くという仮処分異議の事由に当る事柄を主張しながらその手続によつて判決を求めることなく、商法第二七〇条第二項が独立の取消変更決定手続を規定したものとし、同条項の準用があるものとして決定をもつて仮処分決定の取消を求める本件申立は不適法であるので、その他の点について判断をするまでもなく却下するほかない。

よつて申立費用につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 前田治一郎 吉井参也 戸根住夫)

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